【Mrs. GREEN APPLE「breakfast」歌詞考察】「私らしく『おはよう』」と言うために。朝食(breakfast)に込められた、不完全な僕らのための賛歌。

歌詞分析

こんにちは!今回は、Mrs. GREEN APPLEの「breakfast」の歌詞をじっくりと味わっていきたいと思います。一日の始まりを告げる「朝食」というタイトルに込められた、温かくも切実なメッセージを一緒に探っていきましょう。

 

今回の謎

 

この楽曲の歌詞を読み解くにあたり、私は3つの大きな謎を設定しました。

  1. この曲のタイトルである「breakfast(朝食)」は、歌詞全体の中でどのような象徴的な意味を持っているのでしょうか?

  2. 歌詞の中には「僕」「私」「あなた」という3つの人称が登場します。これらはそれぞれ誰を指していて、どのような関係性でこの物語を紡いでいるのでしょうか?

  3. 「知らんけど」という一見投げやりな言葉や、「愚かさを諦めなければ良い」という逆説的な表現には、どのような深いメッセージが込められているのでしょうか?

これらの謎を解き明かしながら、この曲が持つ、現代を生きる私たちへの優しい眼差しに迫りたいと思います。

 

歌詞全体のストーリー要約

 

この歌詞が描く心の動きは、夜が明けて朝になるように、自然な3つのステップで構成されていると解釈しました。

物語は、社会や他者、そして自分自身とのコミュニケーションの難しさに悩み、自己嫌悪に陥る「僕」の姿から始まります。しかし、その複雑な思考のループから抜け出し、「あったかいご飯」を食べるという具体的な日常の営みに立ち返ることで、事態は好転します。最終的に、完璧ではない自分、愚かな自分を丸ごと受け入れ、「あなただけの世界」という、かけがえのない今日を歩み始めるのです。

 

登場人物と、それぞれの行動

 

この歌詞には、主に3つの視点が存在し、それぞれが重なり合いながら物語を形成しています。

  • : この歌の葛藤の中心にいる、内省的な人物。言葉の不自由さに傷つき、悩み、他者から「嫌わないでほしい」と願う、弱さを抱えた存在です。

  • : 「僕」と同一人物の、より前向きで主体的な側面、あるいは「僕」がそうありたいと願う理想の姿とも言えます。「私らしく『おはよう』」と、日常の中にささやかな一歩を見出そうとします。

  • あなた: この歌のメッセージが向けられる、聴き手一人ひとり。作詞者はおそらく、「僕」や「私」が抱える葛藤は、決して特別なものではなく、「あなた」の中にもある普遍的なものだと考えています。「あなただけの世界」を持ち、「奇跡」を秘めた、尊い存在として描かれます。

 

歌詞の解釈

 

それでは、歌詞を一つひとつ丁寧に追いながら、この温かいスープのような楽曲を味わっていきましょう。

 

言葉の不自由さと、僕のせいでもいいから

 

物語は、非常にシニカルで、内省的な問いから始まります。

「目の前に居ない人を救う?」と、世界の大きな問題に思いを馳せる一方で、「難しいことは考えずにいつだってスルー」してしまう自分。言葉のナイフに傷つく繊細さを持ちながら、自分自身も「正しく言葉を使えずにいる」。

この痛烈な自己矛盾の描写に、胸を突かれる人は少なくないでしょう。私たちは皆、心の中に正義感を持ちながら、日々の忙しさや無力感の中で、それを見て見ぬふりをしてしまうことがあるからです。

「どこかで泣いてる人が居る」という事実に心を痛めながらも、「私だって泣きたい夜もある」という本音がこぼれ落ちる。このどうしようもない自己中心的な感情こそが、人間らしさなのかもしれません。そして、そんな矛盾だらけの自分への嫌悪感が、「どうなったって僕のせいでもいいから『嫌わないでほしい』」という、痛切な願いに繋がるのです。無力な自分を認めつつも、誰かとの繋がりを諦めきれない。そんな切実な叫びが聞こえてきます。

 

思考のループから、「とりあえず今日を生きよう」へ

 

コミュニケーションの難しさは、2番でも繰り返されます。「大事な事を言葉で伝えたいのに いざって時にどう言っていいかわかんない」。このもどかしさは、多くの人が経験したことがあるでしょう。

しかし、そんな思考のループを断ち切るように、プリコーラスで楽曲の空気は一変します。

「冷めないうちにあったかいご飯を食べよう」。

ここで、複雑な思考の世界から、五感で感じる具体的な「日常」の世界へと、鮮やかな場面転換が行われるのです。ご先祖様に手を合わせ、戻れない過去の香りに少しだけセンチメンタルになりながらも、彼は決意します。「とりあえず今日を生きよう」。

この「とりあえず」という言葉が、とても優しい。完璧な一日を始めよう、とか、何かを成し遂げよう、とか、そんな大げさなことではなくていい。ただ、今日という日を生き延びよう。そのための最初の一歩が、「私らしく『おはよう』」と、ささやかな挨拶を交わすことなのです。

 

あなただけの世界、あなただけの奇跡

 

そしてサビで、この歌の核心的なメッセージが、温かいメロディと共に届けられます。

「あなただけの世界が 今日も広がっていく」。

ここで主語は「僕/私」から、「あなた」へと手渡されます。これまで描かれてきた葛藤は、僕だけのものではない、あなたの物語でもあるのだ、と。

そして、その世界では、「醒めない夢」のような理想も、「情けない現実」も、どちらも否定されることなく、ただ人生を彩る「景色」になっていくのだと歌われます。良いことも悪いことも、全てがあなただけの世界の一部。そして、そんな世界を生きているあなた自身が、誰でもない、何でもない、かけがえのない「奇跡」なのだと、力強く肯定してくれるのです。

この、日常の中に感謝や答えを見出していく視点は、同じく大森元貴さんが作詞作曲したソロ楽曲「こたえあわせ」とも深く通底しています。どちらの楽曲も、日々の営みの中にこそ、生きるヒントが隠されていることを教えてくれます。

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「知らんけど」に込めた優しさと、愚かさの肯定(謎3への答え)

 

物語はさらに、現代を生きる私たちの心を見透かすように進みます。

「承認欲求が餌になっていく」という現代社会への鋭い眼差し。そんな中で、完璧で「強気」でいることだけが正解じゃない、と彼は言います。「僕はちょっとヒビが入ってるくらいがいいぜ」。この「不完全さの肯定」こそ、ミセスが貫く大きなテーマの一つです。

そして、その後に続く「知らんけど」という一言。これは、決して無責任な投げやりではありません。「僕の価値観はこうだけど、これが絶対の正解じゃないよ。あなたにはあなたの正解があるはずだから」という、相手への深い配慮と、多様性を認める優しさの表れなのです。

さらに、「馬鹿でも良いんだ 阿呆でも良いんだ」と、人の価値は知性や能力では決まらないと断言します。大切なのは「人のあったかい処をわかっていれば良い」こと。そして、「愚かさを諦めなければ良い」と歌います。これは、「自分は賢い」と驕り高ぶることをやめ、「自分は間違うこともある愚かな存在だ」という自覚(=謙虚さ)を持ち続けることさえできれば、それでいい、という深い人間賛歌なのです。

 

そして、「breakfast」へ(謎1、2への答え)

 

最終的に、この歌が描いてきた全ての葛藤と肯定は、**「breakfast」**という、一つの具体的な行為へと収斂していきます。

「難しいことは ここらでやめて」「朝食を済ませてゆく」。

「僕」という葛藤する内面と、「私」という主体的な決意、それらが**「あなた」という普遍的な物語へと昇華された末にたどり着く場所。それが、一日の始まりを告げる「朝食」のテーブルなのです。

つまり、「breakfast」とは、難しい思考のループを断ち切り、「とりあえず今日」を始めるための、最も重要で具体的な儀式**。ヒビが入ったままの不完全な自分を連れて、自分だけの世界(今日)へと踏み出すための、エネルギー補給なのです。

 

歌詞のここがピカイチ!:「ヒビが入ってるくらいがいいぜ 知らんけど」という絶妙な距離感

 

この歌詞で特に秀逸なのは、**「ヒビが入ってるくらいがいいぜ 知らんけど」**というフレーズです。完璧であることが求められがちな現代において、「不完全さの美学」を提示するだけでも十分に力強いメッセージです。しかし、そこに「知らんけど」という、少し気の抜けた、関西弁由来のクッション言葉を置くことで、そのメッセージが持つ「圧」が絶妙に和らげられています。決して上から目線で教え諭すのではなく、「僕はこう思うけど、君はどう?」と、隣に座ってそっと語りかけるような距離感。この優しさが、この歌をただの応援歌ではない、特別な一曲にしているのだと思います。

 

モチーフ解釈:言葉

 

この歌は、「言葉」を巡る葛藤から始まります。「何気ない言葉に傷つく」「正しく言葉を使えずにいる」「大事な事を言葉で伝えたいのに…わかんない」。冒頭では、言葉がいかに不自由で、人を傷つけ、そして自分自身をも縛るものであるかが痛切に描かれます。

しかし、物語が進むにつれて、「わたし」は一度、その複雑な「言葉」の世界から距離を置くことを選びます。「難しいことはここらでやめて」。そして、最終的に立ち返るのは、「おはよう」という、最もシンプルで、根源的で、温かい「言葉」です。高度な語彙や巧みな表現ではなく、日常を始めるための、人と人との繋がりを確認するための、このささやかな言葉にこそ、今日を生きる力が宿っている。この歌は、そんな言葉の原点回帰をも描いているのかもしれません。

この「言葉にできない想い」を肯定し、それでも進んでいく姿勢は、こっちのけんとさんの「けっかおーらい」が描く、理想通りにいかなくても「まあいっか」と現実を受け入れる感覚にも通じるものがあります。

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他の解釈のパターン

 

 

解釈A: 現代社会で疲弊した「僕」と、それを支えるパートナー「あなた」の物語

 

この歌詞の「僕/私」を一人に固定し、「あなた」をそのパートナーと解釈すると、物語は温かいラブソングの様相を呈します。社会の理不尽さやコミュニケーションの難しさに傷つき、自己嫌悪に陥る「僕」。そんな彼/彼女に対し、パートナーである「あなた」が「あなただけの世界が今日も広がっていく」と優しく励ます構図です。「あったかいご飯を食べよう」という呼びかけも、「あなた」からの愛情のこもった提案と読めます。傷ついた一人を、もう一人が「朝食」という日常の営みを通して包み込み、癒していく。そんな二人の温かい関係性を描いた物語として解釈することができます。

 

解釈B: 親から子へのメッセージソング

 

もう一つの可能性として、語り手(僕/私)を「親」とし、「あなた」をその「子供」と解釈する視点です。親自身も、社会の中で様々な矛盾や葛藤を抱えながら生きています。そんな不完全な親だからこそ、我が子には「あなただけの世界」を大切にし、自分らしく生きてほしいと願うのです。「馬鹿でも良いんだ」「人のあったかい処をわかっていれば良い」という言葉は、学力や成績といった目に見える価値だけではない、人間としての豊かさを伝える、親からの切実なメッセージとなります。「朝食を済ませてゆく」という一節は、新しい一日へと元気に旅立っていく子供の背中を、親が見守っている情景に変わります。

 

歌詞の中で肯定的なニュアンスで使われている単語・否定的なニュアンスで使われている単語のリスト

 

 

肯定的ニュアンスの単語

 

救う、正しく、あったかいご飯、行ってきます、ご先祖、今日を生きよう、私らしく、おはよう、あなただけの世界、広がっていく、景色、奇跡、ハイブリッド、嗜好品、強気、ヒビが入ってる、馬鹿でも良い、阿呆でも良い、人のあったかい処、わかっていれば良い、諦めなければ良い、陽の光、朝食

 

否定的ニュアンスの単語

 

関係ない、居ない、難しいこと、スルー、傷つく、泣いてる人、泣きたい夜、僕のせい、嫌わないでほしい、愛想ばっか、芯を食った人が減る、わかんない、冷めないうち、戻れない香り、醒めない夢、情けない現実、脆い、承認欲求が餌、知らんけど、愚かさ、恋しくなっても

 

単語を連ねたストーリーの再描写

 

言葉に傷つき、泣きたい夜を過ごす僕は、

難しいことをやめて、あったかい朝食を食べる。

ヒビが入ったままでいい。

私らしく「おはよう」と、あなただけの世界を生きよう。

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