back number「ブルーアンバー」の歌詞の意味を考察!内に秘めた感情が、無二の輝きを持つ琥珀(アンバー)になるまで

この楽曲「ブルーアンバー」は、内に秘めたまま表に出すことのできない複雑な感情と、その葛藤、そして最終的にその感情が持つある種の美しさを歌い上げています。タイトルにもなっている「ブルーアンバー」は、特定の光の下で青い蛍光を発する希少な琥珀(アンバー)であり、この楽曲における隠された感情の象徴として機能しています。

1. 抑圧された感情の雫:「赤」と「青」

歌詞は、まず「抱きしめられた記憶から流れ出た赤い雫」と「渡しそびれた心から流れ出た青い雫」という対照的なイメージを提示します。これらはどちらも「人様に見せるものじゃない」「人様に浴びせるものじゃない」とされ、社会的な体面や他者への配慮、あるいは自己防衛本能から、内面に押し込められた感情のメタファーとして描かれています。

  • 赤い雫: 「抱きしめられた記憶」という過去の親密な体験と結びついており、情熱、愛情、あるいはそれらが満たされなかったことによる傷、怒りといった、より熱量のある、あるいは攻撃性を帯びうる感情を象徴していると考えられます。それは、自身の内側から溢れ出るものでありながら、他者に見せるべきではない生々しい感情です。
  • 青い雫: 「渡しそびれた心」という、伝えられなかった想いと関連付けられています。これは、愛情や感謝、あるいは謝罪といった、本来は他者へ向かうべきだったポジティブな感情、もしくは叶わなかった願いや後悔、悲しみといった、より静かで内省的な感情を表しているのかもしれません。「浴びせるものじゃない」という表現からは、たとえそれが純粋な気持ちであっても、相手に押し付けるべきではない、あるいは受け止められないだろうという諦念や遠慮がうかがえます。

これらの「雫」は、本来ならば自然に表現されるべき感情が、何らかの理由で堰き止められ、純粋な形を保ったまま、あるいは変質しながらも、心の奥底に存在し続けていることを示唆しています。

2. 内なる叫びと自己欺瞞

感情を抑圧する一方で、そのエネルギーは消えることなく、内面で別の形を取ります。「伝えなかった言霊がもうひとつの私になって」「身体の内側で何かを叫んでる」という描写は、抑え込まれた本音や欲求が、まるで別人格のように存在し、解放を求めて叫んでいる様子を描いています。「欲しかったのに」「悔しかったのに」という素直な感情を認めながらも、「駄目だよ全部隠しておくの」と自らを戒め、「ごめんね」と謝罪する姿には、自己矛盾と罪悪感が色濃く表れています。

さらに、「本当を嘘で飾って」「ごっこみたいな暮らしで慰めて」「誰かの悲劇で自分の悲劇を癒して」というブリッジ部分は、感情を隠蔽し続けることによって生じる自己欺瞞や、不健全な代償行為を描写しています。真実から目を背け、表面的な平穏を装ったり、他者の不幸に触れることで相対的に自身の痛みを麻痺させようとしたりする、痛々しいまでの自己防衛の姿がそこにあります。これは、抑圧された感情がいかに精神を蝕んでいくかを示唆しています。

3. 悲しみの受容と「宝石」への昇華

コーラスで繰り返される「悲しいのは一人で充分だからと」「これ以上醜くなりたくないのと」いうフレーズは、感情を隠す動機の核心に触れています。他者に悲しみを伝染させたくないという配慮、そして感情を露わにすることで自己嫌悪に陥りたくないというプライドや恐怖。これらの思いが、感情を内側に押し込める強い動機となっています。

しかし、その結果として感情は消えるのではなく、「私の中で誰にも見付けられずにこんな色になるまで泣いていた」という状態に至ります。ここで注目すべきは「色」という言葉です。抑圧され、誰にも知られず流され続けた涙や感情は、時間と共に変質し、独自の「色」を帯びるのです。これは単なる悲しみや苦しみではなく、複雑な感情が混ざり合い、熟成された状態を示唆します。

そして、語り手はこの状態を「綺麗よ」と肯定します。これは、単なる慰めや自己憐憫を超えた、深い受容の言葉と解釈できます。抑圧された感情、隠された涙、それらが長い時間をかけて変容し、獲得した唯一無二の「色」は、痛みを伴いながらも、ある種の輝き、美しさを秘めているのだ、と。さらに、「遠くの海の底に沈んでそのまま宝石にでもなれるのを待つ」という一節は、この感情の昇華への期待、あるいは諦念にも似た願いを表しています。海の底という誰にも届かない場所で、長い時間をかけて、痛みや悲しみが硬化し、価値ある「宝石」へと変わることを待つ。これは、感情と向き合い、それを乗り越えるための、孤独で静かなプロセスなのかもしれません。

4. モチーフとしての「ブルーアンバー」:隠された輝き

この楽曲の解釈において、タイトルでありモチーフとなる「ブルーアンバー」は極めて重要な意味を持ちます。ブルーアンバーは、通常の光の下では一般的な琥珀(黄色や茶色)に見えますが、紫外線などの特定の光を当てると、内部から神秘的な青い蛍光を発します。

この性質は、楽曲で描かれる「隠された感情」と見事に重なります。普段は「人様に見せるものじゃない」と隠され、内側に押し込められている感情(赤い雫、青い雫、悲しみ、悔しさ、愛しさ)は、一見するとただの澱や、あるいは「醜い」もののように感じられるかもしれません。しかし、特定の視点(=理解や共感、あるいは自己受容の光)が当てられた時、それらは「こんな色」すなわち、ブルーアンバーのような予期せぬ美しい輝きを放つのです。

語り手が「綺麗よ」と語りかけるのは、まさにこのブルーアンバーが持つ二面性、隠された美しさを見出した瞬間と言えるでしょう。それは、傷つき、歪み、変質してしまったかもしれないけれど、その人だけが持つユニークな感情の結晶であり、否定されるべきものではなく、むしろ肯定されるべき価値を持っている、というメッセージです。

また、琥珀が古代の樹脂が長い年月をかけて化石化したものであるように、「ブルーアンバー」もまた、歌詞の中で描かれる感情が、一朝一夕ではなく、長い時間をかけて心の中で固まり、熟成されてきたものであることを示唆しています。「海の底に沈んで宝石になるのを待つ」というイメージも、この時間による変容、昇華のプロセスと重なります。

したがって、「ブルーアンバー」は、この楽曲全体を貫くテーマ、すなわち「内面に秘められ、抑圧された感情が、苦しみを伴いながらも時間をかけて変容し、他者には見えないかもしれないが、固有の価値と美しさを持つに至る」という複雑な心理を見事に象徴していると言えます。


【歌詞中の単語ニュアンス分類】

  • 肯定的ニュアンスの単語: 綺麗、愛してる、宝石、欲しかった、癒して、充分、記憶、心
  • 否定的ニュアンスの単語: 悲しい、醜く、泣いていた、悔しかった、駄目、ごめんね、嘘、ごっこ、悲劇、溺れた、息も出来ず、隠しておく、叫んでる、流れ出た、沈んで、渡しそびれた、見付けられずに

【単語を繋いだストーリー(80字程度)】

渡しそびれた心、抱きしめられた記憶。悔しかった、悲しい感情に溺れ、嘘で隠していた。醜く泣いていた心が、愛してる想いと共に誰にも見付けられずに沈んで、綺麗な宝石になるのを待つ。

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