「終わらせる意味」から「始まる意味」へ。サカナクション「アルクアラウンド」歌詞解釈。僕らが歩き続ける理由。

歌詞分析

こんにちは!今回は、サカナクション「アルクアラウンド」の歌詞を解釈します。夜を歩き続ける僕らが、一体何を探しているのか、その心の旅路を追ってみたいと思います。

 

今回の謎

 

この楽曲の歌詞を読み解くにあたり、私は3つの大きな謎を設定しました。この記事を通して、これらの謎を一つずつ解き明かしていきたいと思います。

  1. そもそも、タイトルである「アルクアラウンド」という不思議な響きの言葉は、一体何を意味しているのでしょうか?
  2. なぜ主人公である「僕」は、「アルクアラウンド」しながら、「終わらせる意味」という、どこか破壊的でネガティブな響きを持つものを探し求めているのでしょうか?
  3. 物語の終盤、探していたはずの「終わらせる意味」が「今始まる意味」へと変化します。「アルクアラウンド」の果てに、一体何が起きたのでしょうか?

 

歌詞全体のストーリー要約

 

この歌詞が描く物語は、大きく3つのステップで構成されていると読み解きました。

物語は、退屈な日常から抜け出したい「僕」が、孤独を抱えながら夜の街を彷徨うところから始まります。やがて「君」という他者と出会い、「僕ら」として共に時代の「うねり」の中を歩き回ることになります。そして最終的には、当初の目的であった「終わらせる意味」を探す旅が、新たな「始まる意味」を見出す旅へと変貌を遂げるのです。

 

登場人物と、それぞれの行動

 

この物語には、主に3つの視点が存在します。

  • :物語の語り手。退屈な日々の中、漠然とした不安と孤独感を抱え、目的もなく夜の街を歩き回っている。現状からの脱却を願っている。
  • :僕に大きな影響を与える存在。「正しい話」で僕の心を揺さぶり、共に歩むきっかけを与える。
  • 僕ら:「僕」と「君」、そしておそらくは同じような想いを抱える人々が集まった集合体。社会や時代の大きな流れ(うねり)の中で、共に悩み、模索し、進んでいく。

 

歌詞の解釈

 

それでは、歌詞を詳しく読み解いていきましょう。この曲が持つ独特の浮遊感と疾走感は、一体どんな心の風景を描いているのでしょうか。

 

孤独な夜の散歩、その始まり

 

物語は、印象的なフレーズで幕を開けます。主人公である「僕」が、退屈で手持ち無沙汰な日々の中、「新しい夜」を待ち望みながら歩き出す。この「新しい夜」という言葉が、いきなり心を掴みます。普通なら「新しい朝」を待つものですが、彼は夜に希望を見出している。これは、昼間の喧騒や日常のルーティンから解放され、自分自身と向き合える静かな時間、あるいは何かが起こりそうな非日常の時間を求めている心の表れではないでしょうか。

続くパートでは、「僕」の孤独がより具体的に描写されます。ひとりで見上げる月、ひとりになってしまったという諦念、そしてかじかんだ自分の手。これらは全て、彼の心の内に渦巻く寂しさや虚無感を象徴しているようです。月は古来から孤独や感傷のモチーフとして使われますが、ここではっきりと「悲しみです」と断定している点に、彼の深い孤独が滲み出ています。

この、目的もなく夜を歩き始めるという行為そのものが、彼のアイデンティティが揺らいでいることの証明かもしれません。自分は何者で、どこへ向かっているのか。その答えが見つからないまま、ただ足を前に進めているのです。

 

「うねり」の中へ、僕から「僕ら」へ

 

Bメロに入ると、少しだけ視界が開けます。「覚えたてのこの道」という表現。これは、彼が新しい環境、例えば上京したばかりの街や、新しい職場、新しい人間関係の中に足を踏み入れたばかりであることを示唆しているように感じられます。しかし、まだその場所に馴染めず、「何を探し回るのか 僕にもまだわからぬまま」という状態。目的のない彷徨は続いています。

そして、サビで決定的な変化が訪れます。主語が「僕」から「僕ら」へと変わるのです。

「嘆いて 嘆いて 僕らは今うねりの中を歩き回る」

これは、孤独だった「僕」が、同じように嘆き、悩み、何かを探し求める他者と出会ったことを意味します。この「うねり」とは何でしょうか。それは、時代の大きな流れ、社会の喧騒、あるいは抗いがたい感情の渦かもしれません。個人ではどうしようもない大きな力の中で、彼らはひとりではなく、「僕ら」として共に歩き回ることを選んだのです。

孤独や不安を抱えながらも、同じような境遇の他者と繋がることで、前に進むエネルギーを得ようとしているのかもしれません。Official髭男dismの「50%」では、完璧を求められる現代社会のプレッシャーが歌われていますが、「アルクアラウンド」の「うねり」もまた、そうした抗いがたい社会の圧力を象徴しているように思えます。

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しかし、彼らが探しているものは、非常に示唆的です。「この地で この地で 終わらせる意味を探し求め」。彼らは何かを始めるためではなく、何かを「終わらせる」ために歩いている。これは、現状に対する強い否定と、破壊への衝動、リセット願望の表れではないでしょうか。この辛い状況、目的のない日々、不安な心を、ここで終わらせたい。そのための意味やきっかけを、必死に探し求めているのです。

 

「君」という存在と、揺れる心

 

ここで、物語に新たな登場人物、「君」が現れます。

「君」は、「正しい話」で「僕」を正しく揺らす存在。この「正しい」という言葉の繰り返しが、僕にとっての君の存在の大きさを物語っています。君の言葉は、僕の曖昧だった価値観や、進むべき道に、確かな指針を与えてくれるような、そんな力を持っているのかもしれません。君といることで、僕は何かを確かめることができる。それは自分の存在意義かもしれないし、この世界との繋がりかもしれません。

しかし、続く歌詞ではその関係性の脆さも描かれます。声を聞くと惹かれるけれど、すぐに忘れてしまう。気まぐれな僕らは、結局離れ離れになってしまう。このつかず離れずの関係性は、人間関係の不安定さや、確かなものを掴みきれない焦燥感を表現しているようです。

結局、「何が不安で何が足りないのかが解らぬまま」、再び自己分析の迷宮に迷い込んでしまいます。問題の核心に近づいたようで、まだその正体は掴めない。このもどかしさが、聴く者の心を締め付けます。

 

「歩く」から「泳ぐ」へ、そして「始まり」へ(謎1、2、3への答え)

 

二度目のサビでは、表現が「歩き回る」から「泳ぎ回る」へと変化します。これは非常に重要な変化です。「歩く」という行為には、まだ自分の意志で地面に足をつけ、進む方向を決めるという主体性があります。しかし、「泳ぐ」となると、どうでしょう。「うねり」という大きな流れの中で、もはや自分の意志だけではどうにもならず、必死に流されないようにもがき、時に流れに身を任せるしかない、そんな状況が目に浮かびます。彼らが置かれた状況が、より過酷で、抗いがたいものになったことを示唆しているのです。

そして、この物語は、最後のサビで劇的なクライマックスを迎えます。

「悩んで 僕らはまた知らない場所を知るようになる」

これまで「嘆いて」「流れて」きた彼らが、ついに「悩んで」という、より能動的で深い思考のフェーズに入ります。そしてその結果、彼らは成長を遂げるのです。「知らない場所を知る」とは、物理的な場所だけでなく、精神的な新しい境地、新しい価値観に到達したことを意味しているのでしょう。

そして、ついに、探していた目的そのものが変容します。

「この地で この地で 今始まる意味を探し求め また歩き始める」

あれほどまで渇望していた「終わらせる意味」が、「今始まる意味」へと昇華された瞬間です。これは、この曲の核心であり、最も感動的なメッセージだと私は思います。

(謎1への答え) ここで、タイトルの「アルクアラウンド (walk around)」の意味が鮮明になります。これは単に「歩き回る」という行為を指すだけでなく、目的もなく彷徨い、悩み、他者と関わり、様々な経験を経て、最終的に自分たちが立つべき場所と進むべき理由を見つけ出すまでの、一連の精神的な旅路そのものを象負徴した言葉だったのです。

(謎2への答え) なぜ最初は「終わらせる意味」を探していたのか。それは、孤独や不安、目的を見失った現状に対する強烈な閉塞感からです。この辛い状況から抜け出したい、この無意味な時間を終わらせたいという、切実な破壊衝動であり、リセット願望だったのです。

(謎3への答え) それが「始まる意味」に変わったのは、彷徨の末の「気づき」があったからです。「うねり」に抗い、あるいは流され、君と出会い、離れ、そして深く悩んだ。その過程で「知らない場所を知る」という経験を経たことで、彼らの視点は180度転換しました。現状をただ破壊して終わらせるのではなく、この辛さや不安を抱えた「この地」こそが、全ての始まりの場所なのだと気づいたのです。逃げるのではなく、ここから創造していくのだという、絶望から生まれた希望。それが「今始まる意味」の正体なのでしょう。

King Gnuの「TWILIGHT!!!」も、抗えない時間の流れの中での終わりと始まりを描いていますが、「アルクアラウンド」はより内省的で、自らの足で歩き続けた果てに「始まり」を掴み取る物語と言えるかもしれません。

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歌詞のここがピカイチ!:「歩き回る」から「泳ぎ回る」への鮮やかな動詞の変化

 

この歌詞の表現で特に秀逸だと感じるのは、サビで描かれる「歩き回る」から「泳ぎ回る」への動詞の変化です。前述の通り、この一語の変化だけで、主人公たちが置かれた状況の厳しさが増していく様を見事に描き出しています。最初は自分の足で立っていたはずが、抗いがたい「うねり」に足元をすくわれ、水中でもがくような状態へ。このダイナミックな情景描写が、歌詞にリアリティと緊迫感を与えています。それでも彼らは進むことをやめない。その姿に、私たちは強く心を揺さぶられるのです。

 

モチーフ解釈:「夜」が持つ二面性

 

この楽曲を貫く重要なモチーフは「夜」です。冒頭から最後まで、物語の舞台は一貫して夜。一般的に「夜」は孤独、不安、闇といったネガティブなイメージを伴いますが、この曲ではそれだけではありません。冒頭の「新しい夜を待っていた」というフレーズに象徴されるように、夜は日常からの解放であり、変化のきざしであり、自己と向き合うための神聖な時間でもあります。

しらしらと夜が明けていくのか、あるいはさらに深い夜に向かっていくのか。その曖昧な光の中で、彼らは歩き、悩み、そして答えを見つけ出します。この闇の中を彷徨い抜いたからこそ、最後に「今始まる意味」という、夜明けの光のような希望を掴むことができた。この「夜」というモチーフが、楽曲全体に深い奥行きと詩的な情景を与えているのです。

 

他の解釈のパターン

パターン1:失恋からの再生を描いたラブソング

 

この歌詞を、「僕」が過去の失恋から立ち直り、新しい恋を見つけるまでの物語として解釈することも可能です。この場合、「終わらせる意味」とは、忘れられない過去の恋や、それによって生まれた孤独な自分を終わらせることを指します。ひとり夜の街を彷徨うのは、失恋の痛みを抱えているから。「君」は新しく出会った、あるいは気になっている人物で、その存在が僕を過去から引き剥がそうとします。「声を聞くと惹かれ」「離ればなれ」になるのは、新しい恋に進むことへの戸惑いや駆け引きの様子を描いていると読めます。そして最終的に、「悩んで」過去ときちんと向き合った結果、過去の恋を「終わらせる」のではなく、この経験を糧に「今始まる」新しい恋を受け入れる決意をした、という再生の物語として捉えることができます。

 

パターン2:クリエイター(芸術家)の創作の苦悩を描いた歌

 

もう一つは、「僕」を何かを生み出すクリエイター(音楽家、作家、画家など)として捉える解釈です。「何を探し回るのか」という問いは、まさに創作のテーマやインスピレーション探しの苦悩そのものです。「うねり」とは、時代の流行や評価の波。その中で、他のクリエイターたち(僕ら)と共に、自分の表現を模索します。「終わらせる意味」とは、過去の自分の作風を破壊し、陳腐化した表現を終わらせ、全く新しいものを生み出したいという芸術的な渇望です。「君」は、インスピレーションを与えてくれるミューズや、的確な批評をくれる他者のことかもしれません。最終的に「今始まる意味」を見つけるのは、様々な苦悩や模索の果てに、ついに新たな創作の核となるテーマや表現方法を見出し、作品制作を「始める」決意を固めた瞬間を描いていると解釈できます。サカナクション自身のバンドとしての葛藤や決意が投影されている、と考えることもできるでしょう。

 

歌詞の中で肯定的なニュアンスで使われている単語・否定的なニュアンスで使われている単語のリスト

 

肯定的ニュアンスの単語

  • 新しい夜
  • 正しく
  • 惹かれ
  • 知る
  • 始まる意味

否定的ニュアンスの単語

  • つれづれな日
  • 悲しみ
  • 淋しい
  • 冷えた
  • わからぬまま
  • 嘆いて
  • 疲れ
  • 離ればなれ
  • 不安
  • 足りない
  • 悩んで

 

単語を連ねたストーリーの再描写

 

「つれづれな日」に「悲しみ」と「淋しい」を抱えた僕は、

「嘆いて」「悩んで」、

ついに「新しい夜」に「始まる意味」を「知る」。

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