Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」の歌詞考察。「チート」と言われるほどの才能は、実は泥臭い「生身」の積み重ねだった。

歌詞分析

こんにちは!今回は、Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」の歌詞を解釈します。圧倒的な自己肯定の源泉、「生身」の輝きに迫ります。

 

今回の謎

 

この楽曲を聴いて、多くの人がそのエネルギーに圧倒されたのではないでしょうか。しかし、その歌詞を深く読み解くと、いくつかの興味深い謎が浮かび上がってきます。

  1. タイトル「Bling-Bang-Bang-Born」が示す「輝き、打ち付け、生まれる」とは、具体的にどのようなプロセスを指しているのでしょうか?

  2. 「Bling-Bang-Bang-Born」で歌われる主人公は、なぜ自らを「チート」や「禁じ手」とまで表現しながらも、「生身」であることに強くこだわるのでしょうか?

  3. 「Bling-Bang-Bang-Born」において、主人公が「俺のままで居るだけで超 flex」と語れるほどの自信は、一体どこから湧いてくるのでしょうか?

これらの謎を紐解きながら、この曲が持つメッセージの核心に迫っていきましょう。

 

歌詞全体のストーリー要約

 

この楽曲が描く物語は、非常にシンプルかつパワフルな上昇譚です。その流れを3つのステップで要約します。

物語は、まず主人公が常人には理解できない「規格外の存在」として登場するところから始まります。周囲はその力を「チート」だ「バグだ」と評しますが、主人公はそれを一蹴し、自らの力はあくまで「生身」のものだと宣言します。そして最後には、その「生身」の自分自身を全肯定し、その存在自体が輝き(Bling)となって道を切り拓いていくという、揺るぎない自己肯定へと至るのです。

 

登場人物と、それぞれの行動

 

この歌詞に登場するのは、以下の人物たちです。

  • 主人公(「俺」): 常識外れの才能と努力で周囲を圧倒し、自身の存在そのものを「Bling(輝き)」として証明しながら、高みを目指し続ける人物。

  • ライバル/周りの人々: 主人公の圧倒的な力を理解できず、「チート」や「バグ」だと決めつけ、呆れたり嫉妬したりする人々。

物語は、この主人公「俺」の視点から、周囲の反応を意に介さず、ひたすらに自らの道を突き進む姿が描かれています。

 

歌詞の解釈

 

 

導入:規格外の才能、その正体とは

 

物語の幕開け、冒頭から畳み掛けられる言葉のシャワーは、主人公がいかに常識から逸脱した存在であるかを物語っています。「チート」「禁じ手」「反則」「異次元」。これらはすべて、ルールや常識の範囲外にある力を示す言葉です。ライバルたちが口を揃えて「バグだ」「まぐれだ」と認めない様子は、彼の力が他者には到底理解できない領域にあることを浮き彫りにします。

普通なら、これほどの言葉を並べられたら、何か特別な、人間離れした能力を想像してしまいますよね。魔法か、あるいは生まれながらの超能力か。しかし、この曲の主人公は、そのすべてをたった一言で、しかし力強く否定するのです。

「マジで?コレおま 全部生身で?」

この問いかけに対する答えこそが、この楽曲の核心を突く最初の大きな一撃。それは、圧倒的なパフォーマンスの直後に叩きつけられる、揺るぎない真実の表明です。

 

「生身」であることの誇り(謎2への答え)

 

サビで高らかに歌われるのは、特別な力ではなく「生身」であることの宣言。この「生身」という言葉に、主人公の強烈なプライドが凝縮されているように感じます。

Verse 2では、そのプライドの源泉が少しずつ明かされていきます。相手が戦う前に逃げ出してしまうほどのレベル、上がりきったハードルを前にして「very happy」と感じる心境。これは、困難を恐れるどころか、それを乗り越えることに至上の喜びを見出す、アスリートのような精神性を感じさせます。

「誰の七光も要らない」というフレーズは、彼の力が親の威光やコネといった外部の要因によるものではないことを明確に示しています。彼の武器は、自分自身の内側から湧き出るものだけ。だからこそ、他人のきらびやかな装飾品(ice)よりも、自分自身の存在(icy)の方が冷たく、鋭く、そして本質的な輝きを放っていると自信を持っているのです。

ではなぜ、これほどまでに「生身」にこだわるのでしょうか。

それはおそらく、彼の「gifted」と評される才能が、決して楽に手に入れたものではないからです。それは、汗と涙、そして見えない場所での凄まจい努力に裏打ちされた、まさに「生身」の人間が積み重ねてきたものの結晶。周囲が「チート」や「バグ」という言葉で片付けようとするその現象を、「いや、これは俺という人間が、この身体一つで成し遂げていることなんだ」と証明したい。その強烈な意志が、「生身」という言葉に込められているのではないでしょうか。特別な魔法じゃない、これが俺のリアルなんだ、と。

 

最強の自己肯定術:「鏡よ鏡」(謎3への答え)

 

では、その圧倒的な自信はどこから来るのか。その答えが、Pre-Chorusに描かれる印象的なシーンにあります。

「鏡よ鏡答えちゃって Who’s the best? I’m the best! Oh, yeah」

童話『白雪姫』を彷彿とさせるこのフレーズは、しかしその実、全く逆のベクトルを向いています。女王が鏡に「世界で一番美しいのは誰?」と他者(鏡)からの承認を求めるのに対し、この曲の主人公は、鏡に映る自分自身に問いかけ、そして自分自身で「俺が最高だ!」と即答するのです。

これは、他者の評価を一切必要としない、完璧な自己完結型の肯定プロセスです。周りが呆れていようが、嫉妬していようが関係ない。最終的な評価者は、常に自分自身。この揺るぎない自己肯定の儀式こそが、彼の力の源泉なのです。もちろん、彼を支える家族や友人の存在も示唆されていますが、彼の核にあるのは、この徹底したセルフ・ラブ、自己への信頼です。

この自分こそが最高のヒーローなのだ、という強い意志は、時に人生を切り開く上で何よりの武器になります。こっちのけんとさんの「けっかおーらい」という楽曲も、人生を進む誰もがヒーローであるというメッセージを歌っていますね。

この強固な自己肯定があるからこそ、「Ey-day 俺のままで居るだけで超 flex(毎日、俺が俺のままでいるだけで超ヤバい)」と言い切れる。彼の存在そのものが、もはや一つのアートであり、誰も口を挟むことのできない領域に達しているのです。

 

「Bling-Bang-Bang-Born」のプロセスの具体像(謎1への答え)

 

それではいよいよ、タイトルの謎に迫りましょう。「Bling-Bang-Bang-Born」とは、一体何を指しているのでしょうか。Verse 3に、その具体的なヒントが散りばめられています。

まず主人公は、世間的な成功のステレオタイプを否定します。「学歴も無い」「前科も無い」「高級車は買える(けど)免許は無い」「tattooは入って無い」。これらは、彼が既存の価値観や、ヒップホップカルチャーにありがちな武勇伝のテンプレートには当てはまらない、独自の存在であることを示しています。

では、彼の「Bling(輝き)」とは何か。それは、高価な装飾品ではなく、「存在自体が文化財な脳味噌」や「関西訛り生身のコトダマ」といった、内面的な知性や、彼自身の言葉そのものなのです。

これを踏まえて、タイトルを解体してみましょう。

  • Bling: これは彼の「輝き」の源泉。すなわち、磨き上げられた知性(脳味噌)であり、経験であり、言葉の力(コトダマ)です。

  • Bang-Bang: これは彼が世界に与える「衝撃」。彼の言葉が世間の常識を打ち破り(Bang!)、新たな価値観を叩きつける(Bang!)様子の比喩でしょう。それはまるで、彼の言葉が弾丸(バレット)となって、人々の心を撃ち抜くかのようです。

  • Born: そして、このプロセスを通して彼は「生まれる」。常に過去の自分を「脱皮」し、新しい自分として生まれ変わり続ける。そして、そもそもがこの「Bling-Bang-Bang」をするために「Born(生まれてきた)」のだという、宿命論的な力強ささえ感じさせます。

つまり、「Bling-Bang-Bang-Born」とは、**「自らの内なる才能(Bling)を、言葉と行動で世の中に衝撃(Bang-Bang)として示し、それによって常に新しい自分として生まれ変わり続ける(Born)」**という、主人公の生き様そのものを表した、最強のオノマトペ(擬音語・擬態語)なのです。

 

歌詞のここがピカイチ!:「ダメージ」を「年輪」と捉える美学

 

この歌詞の中で、個人的に最も心を揺さぶられたのが、「繰り返しやらかしてくダメージが イカつい年輪を刻む皺」という一節です。

通常、「ダメージ」や失敗は、ネガティブな「傷」として語られることが多いです。しかし、彼はそれを、木の成長の証である「年輪」に喩えました。これは、単なるポジティブシンキングを超えた、人生哲学の域に達している表現だと感じます。失敗や困難、心無い批判といったあらゆる「ダメージ」を、ただ乗り越えるだけでなく、自分を形成する貴重な経験として、その身に刻み込んでいく。その積み重ねが、誰にも真似できない深みと凄み(イカつい年輪)を生むのだ、と。この美学こそが、彼の揺るぎない強さの根幹をなしているのかもしれません。

 

モチーフ解釈:「生身」が放つ本当の輝き

 

この楽曲を貫く最も重要なモチーフは、やはり「生身」でしょう。

「生身」とは、単に「ありのままの肉体」という意味に留まりません。それは、外部の権威や装飾、例えば学歴、家柄、ファッション、あるいは「ワル」であることの証明としてのTattooや傷跡といったものに一切頼らない、という決意表明の象徴です。

面白いのは、「Bling」という、本来はギラギラとした宝石や貴金属の輝きを指す言葉と、「生身」という非常にオーガニックで泥臭い言葉が結びついている点です。普通なら相反するこの二つを繋げることで、「本当の輝きとは、外部の装飾ではなく、内側から滲み出るものなのだ」という、この曲の核心的なメッセージが生まれます。

彼の「生身」は、努力や経験、そしてダメージすらも糧にして、ダイヤモンドのように硬く、そして眩いほどの輝きを放つ。この逆説的でありながらも力強いイメージこそが、「Bling-Bang-Bang-Born」という楽曲の持つ、抗いがたい魅力の源泉なのです。

 

他の解釈のパターン

 

 

パターン1:これは「クリエイター」としての苦悩と覚醒の歌

 

この物語を、特定のラッパー個人の話としてではなく、より普遍的な「クリエイター(創造者)」の歌として解釈することも可能です。この視点に立つと、歌詞の言葉は新たな意味を帯びてきます。

「チート」や「禁じ手」といった言葉は、既存のジャンルや表現の枠組みを破壊するような、革新的な作品を生み出したクリエイターに向けられる、旧来の価値観からの嫉妬や無理解の声と捉えられます。それに対して「これは全部生身でやっている」と返すのは、小手先のギミックや流行に頼るのではなく、自分自身の感性と技術、そして膨大な試行錯誤の積み重ねだけで勝負しているのだ、というクリエイターとしての矜持の表れでしょう。

この解釈では、「Bling-Bang-Bang-Born」のプロセスは、作品の創造から発表、そして評価へと繋がる一連の流れそのものを指します。アイデアが生まれ(Born)、それが作品として世に放たれ衝撃を与え(Bang-Bang)、やがて評価という輝きを得る(Bling)。そして、「ダメージが年輪を刻む」という表現は、創作活動に伴うスランプや批判、失敗といった苦悩の経験こそが、作家をより深く、成熟させる糧になることを示唆しています。

このように解釈することで、この歌はラッパーやミュージシャンに限らず、あらゆる分野で何かを生み出そうと奮闘する、すべてのクリエイターへの力強いエールとなるのではないでしょうか。

 

パターン2:現代社会の「普通」へのアンチテーゼ

 

もう一つの可能性として、この楽曲を、現代社会が押し付ける画一的な価値観、いわゆる「普通」への強烈なアンチテーゼとして読み解くことができます。

「学歴も無い」「免許は無い」といった自己紹介は、社会的な成功のテンプレートとされるルートから、自分は外れているという宣言です。多くの人が目指す「良い大学を出て、良い会社に入り、安定した生活を送る」というようなステレオタイプな幸福像に対して、「俺にはそんなものはない」と突きつけているのです。

しかし、彼は決してそれをコンプレックスには感じていません。なぜなら、そうした物差しでは測れない別の次元で、彼は圧倒的に輝いている(Bling-bling)からです。その輝きの源は、「脳味噌」や「コトダマ」といった、数値化したり、履歴書に書いたりすることができない、極めて個人的で、代替不可能な能力です。

「ライバル口を揃えて バグで、まぐれ、認めねーゼッテー」という周囲の反応は、まさにこの既存の価値観では理解できない才能に対する、社会の拒絶や戸惑いを描いていると言えるでしょう。

この歌は、たとえ「普通」のレールから外れていたとしても、世間の評価に惑わされず、自分だけの武器を信じて磨き続ければ、既存のルールすら覆すほどの圧倒的な存在になることができる、というメッセージを発しています。それは、窮屈さを感じる現代を生きる多くの人々、特に若者にとって、自分を肯定し、前へ進むための力強い応援歌となるはずです。そうした自分らしさの肯定は、M!LKの「イイじゃん」が歌う、多様性を認め合うメッセージにも通じるものがありますね。

 

歌詞の中で肯定的なニュアンスで使われている単語・否定的なニュアンスで使われている単語のリスト

 

肯定的ニュアンスの単語:

gifted, wanted, 異次元, 生身, Bling, bang, born, happy, ピカイチ, 脱皮, icy, 恵まれてる, 呪(まじな)い, best, flex, 余裕, 文化財, 逸品, コトダマ, 幸運, 勝利の女神, 漫画, 圧倒的チカラ, 年輪

否定的ニュアンスの単語(ただし主人公のエネルギー源):

チート, 荒技, 禁忌, 禁じ手, 盲点, 反則, 無理ゲー, バグ, まぐれ, バックれてく, キレてる, 呆れてる, bad, test, 前科, ダメージ

 

単語を連ねたストーリーの再描写

 

「俺」は「生身」の「圧倒的チカラ」で「無理ゲー」を覆す。

周囲の「呆れてる」視線の中、「ダメージ」すら「年輪」に変え、

「Bling-Bang-Bang-Born」と輝き、「脱皮」しながら「1番上」を目指す。

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言葉に関心があって、ラップやcreepy nutsも聞くようになった者です。とても面白かったです。何度も聞いた曲なのに、タイトルのblingの単語の意味さえ調べようとしませんでした。
これからアーカイブを拝見します。楽しみです!

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