こんにちは!今回は、tuki.「騙シ愛」の歌詞を解釈します。嘘と真実が渦巻く世界で、信じられるものを探す心の旅路を追います。
今回の謎
この楽曲は、そのタイトルからして聴く者に鋭い問いを投げかけます。美しいメロディとは裏腹に、歌詞にはヒリヒリとした痛みが伴います。読み解くほどに、いくつかの謎が浮かび上がってきました。
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タイトル「騙シ愛」は、なぜ「騙し愛」と「騙し合い」の二つの意味を想起させるのでしょうか?このダブルミーニングが物語にどう影響しているのでしょうか?
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「騙シ愛」の中で、主人公はなぜ「自分を守る」ためについた嘘によって、逆に自分を見失いそうになるのでしょうか?
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「騙シ愛」の最後のフレーズ、「同じ痛みを分け合えるような貴方と出会うために」という言葉は、物語全体を通してどのような意味を持ち、主人公にどのような希望を与えているのでしょうか?
これらの謎を解き明かしながら、嘘と真実の狭間で揺れる魂の叫びに耳を傾けてみましょう。
歌詞全体のストーリー要約
この楽曲は、嘘から始まった関係性の中で、主人公が本当の自分と信じられる繋がりを求めて葛藤し、やがて未来への希望を見出すまでの物語です。
物語は、主人公が「あなた」との関係の中で、自己防衛のために嘘をついてしまうところから始まります。しかし、その嘘は彼女を孤独にし、本当の自分を見失わせていきます。嘘の闇の中でもがく中で、彼女はかつて感じたぬくもりだけを頼りに、やがてこの痛みの経験こそが、未来の真実の出会いに繋がると信じ、自分自身として生きることを決意するのです。
登場人物と、それぞれの行動
この物語には、関係性の変化とともに、代名詞で示される3人の人物が登場します。
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私: この物語の語り手。「あなた」との関係の中で、自分を守るため、あるいは相手を傷つけないために嘘をつき、真実を隠してしまいます。その結果、深い孤独を感じ、信じられるものを探し求めます。最終的には、ありのままの自分を理解してくれる「貴方」との出会いを信じて、自分自身を生きることを決意します。
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あなた: 物語の前半に登場する、「私」が嘘をついてしまう相手。歌詞の中では「私」の視点から描かれるため、その内面は謎に包まれています。
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貴方: 歌詞の最後に登場する、未来に出会うであろう理想の相手。「私」と同じ痛みを理解し、分かち合える存在として、この物語の希望そのものを象徴しています。
歌詞の解釈
導入:嘘から始まる関係性
この物語は、衝撃的な一文から始まります。「騙し合いのこの世界で」。まるで、これが世界の前提であるかのように。その中で「信じられるものを探す」という、困難な旅路が幕を開けます。
Verse 1では、さっそく主人公の後悔にも似た自問自答が始まります。「どうして嘘をついてしまったの」。その動機は、すぐに明かされます。「自分を守りたいだけじゃないの?」と。相手に本当のことを伝えたら、どんな顔をされるだろうか。嫌われるかもしれない、傷つけてしまうかもしれない。その恐怖が、彼女に嘘をつかせるのです。ここに描かれているのは、相手の反応を恐れるあまり、本音を言えなくなってしまった、非常に脆く、不安定な関係性の始まりです。
第一章:「騙し愛」の甘さと痛み(謎1への答えの導入)
嘘をつく動機は、自己防衛だけではありませんでした。Pre-Chorusでは、「悲しそうな顔させてしまうわ」と、相手を思いやる気持ちも示されます。傷つけたくない、という優しさもまた、彼女を嘘へと向かわせるのです。
「月の裏側も知らずに 夢だけ見ていたね」。
なんと切ない比喩でしょうか。私たちは月の美しい、光り輝く面しか見ることができません。それと同じように、相手の本当の姿や、この関係性が内包する問題点(月の裏側)から目を背け、ただ甘い夢だけを見ていた過去。その夢を守るために、彼女は嘘をつき続けるのです。
そして、サビで「騙し愛の嘘の中で」という言葉が登場します。これは、相手を騙すことでしか成り立たない、歪んだ愛の形を指しているのかもしれません。あるいは、愛しているからこそ、相手を傷つけないために嘘をついてしまう「騙す愛」なのかもしれません。この曖昧さこそが、この楽曲のタイトル「騙シ愛」の持つ一つの側面、「騙し愛」の正体です。
そんな嘘にまみれた関係の中で、彼女は真実を見抜くための「瞳が欲しい」と切に願うのです。
第二章:「騙し合い」への移行
物語はVerse 2で新たな局面を迎えます。今度は、彼女が相手の嘘に気づく番です。
「どうして嘘を覚えたんだろう」「どうして本当を隠すのだろう」。
問いの矛先が、相手へと向かっています。そして、彼女がとった行動は、「私は知らぬふりをする」ことでした。相手の嘘に気づきながらも、それを指摘しない。真実に触れて、この脆い関係が壊れてしまうことが「怖くなった」からです。
これはもう、一方的に彼女が嘘をつく「騙し愛」ではありません。お互いが嘘をつき、あるいは相手の嘘に気づきながらも見て見ぬふりをする。物語は、より複雑な「騙し合い」の段階へと移行したのです。
そんな状況の中、彼女の心の叫びが「青いままで熟れた果実みたいに」という比喩で表現されます。周りからはまだ子供っぽく(青い)見られているかもしれないけれど、私の内面はもう十分に熟している。誰にも気づかれずに、このまま枯れてしまうのは嫌だ。「一口齧って欲しいだけ」という言葉に、どうか本当の私に気づいて、触れてほしい、という渇望が凝縮されています。自分を偽り、抑圧された感情を抱える姿は、back numberの「ブルーアンバー」で描かれる主人公の孤独とも重なります。

第三章:嘘の闇と、信じられるぬくもり(謎2への答え)
嘘を重ねた関係は、やがて光を失い、「騙し愛の闇の中」へと沈んでいきます。その暗闇の中で、彼女が唯一信じられるもの。それは、理屈や言葉ではなく、かつて確かに「触れたはずのぬくもりだけ」。あの記憶だけが、彼女を繋ぎとめる最後の希望なのです。
そして、彼女は一つの大きな決意を固めます。「私を生きてくから」。
これは、この嘘で塗り固められた関係性からの決別宣言です。なぜなら、彼女は気づいてしまったから。「自分を守りたい」という動機でつき始めた嘘が、結果的に本当の自分を殺し、自分自身を見失わせていたという事実に。嘘をつけばつくほど、本当の感情は麻痺し、自分が何をしたいのか、何を感じているのかさえ分からなくなっていく。自分を守るための鎧が、いつしか自分を閉じ込める牢獄になっていたのです。この牢獄から抜け出し、「私」という人間を生き直す。それが彼女の出した答えでした。
Bridge部分では、その葛藤が「藻掻くほど迷い込み 真実は零れてく」という言葉で描かれます。嘘を取り繕おうとすればするほど、本質は指の間からこぼれ落ちていく。この悪循環を断ち切るしかないのです。関係がこじれ、破綻していく様は、時に憎しみすら生み出します。Mrs. GREEN APPLEの「天国」では、そうした後悔と執着が描かれており、愛憎の複雑さを感じさせます。

最終章:私を象り、貴方と出会うために(謎3への答え)
物語の最後、彼女は再び「騙し合いのこの世界で」という現実と向き合います。しかし、その響きは冒頭の諦めに満ちたものとは異なります。そこには、この不条理な世界で生きていくのだという、静かな覚悟が感じられます。「心、裏切らないで」という願いも、もはや他者に向けられたものではありません。どんな状況でも、自分自身の心にだけは嘘をつかない、という自分への誓いへと昇華されているのです。
「手探りでいいよ 私を象ろう」。
嘘で固められた虚像ではない、たとえ不格好で、不確かでも、本当の自分を自分の手で形作っていこう。その決意が、彼女を未来へと向かわせます。
そして、物語は一条の強い光で締めくくられます。「いつか必ず出会うだろう同じ痛みを 分け合えるような貴方と出会うために」。
これまで経験してきた、嘘をつく痛み、嘘に傷つく痛み、孤独にもがいた痛み。その全ては、決して無駄ではなかった。この痛みを知っているからこそ、いつか出会う、同じように傷ついた経験を持つ「貴方」と、心から理解し合い、痛みを分かち合うことができる。この未来への希望こそが、彼女が過去のすべてを肯定し、「私を生きてく」ための、何よりの理由となるのです。この他者への理解と共感を求める旅路は、キタニタツヤさんの「あなたのことをおしえて」という楽曲が描く、他者の痛みを受け止めようとする優しさとも通底しています。

歌詞のここがピカイチ!:「青いままで熟れた果実」という絶妙な比喩
この歌詞の中で、特に心を掴まれたのが「青いままで熟れた果実みたいに」という比喩表現です。
この一節は、思春期特有のアンバランスな自己認識と、他者からの評価とのギャップを、見事に描き出しています。「青い」という言葉は、未熟さ、子供っぽさ、世間知らずといったイメージを喚起させます。これは、周りからそう見られている、あるいは自分でもそう感じている部分なのでしょう。しかし、その内側はすでに「熟れ」ている。複雑な感情や、物事の本質を理解するだけの成熟した精神が育っているのです。
この内と外のギャップに誰にも気づかれないまま、時間だけが過ぎて「枯れてしまう」ことへの焦燥感。「一口齧って欲しい」というささやかな、しかし切実な願いには、見た目や年齢で判断しないで、どうか本当の私を認めてほしい、という魂の叫びが凝縮されています。この瑞々しくも痛みを伴う表現力は、tuki.さんの非凡な才能を感じさせます。
モチーフ解釈:「瞳」が求めるもの(謎1への答え)
この歌詞の中で、主人公が繰り返し求める「瞳」は、単に物を見るための器官以上の、深い意味を持つモチーフです。
最初のサビでは、「信じられる物を探す 瞳が欲しい」と歌われます。これは、嘘偽りに満ちた世界の中で、何が本物かを見極めるための力が欲しい、という願いです。彼女はまだ、信じられるものが「外」にあると考えています。
しかし、最後のサビでは、「信じられる物を透かす 瞳が欲しい」へと変化します。この「探す」から「透かす」への変化が非常に重要です。「探す」のが外にある対象物であるのに対し、「透かす」のは、物事の表面を通り越し、その奥にある本質や真理を見抜く、より内省的で深い洞察力を示唆します。
この「瞳」は、もはや他者の嘘を見抜くためだけのものではありません。自分自身の心の中にある嘘やごまかし、そして本当の願いを見つめ、信じられる自分自身を確立するための「内なる瞳」でもあるのです。この瞳を得ることによって、彼女は「騙し愛」と「騙し合い」という二重性の罠を乗り越え、真実の関係を築くための第一歩を踏み出すことができるのでしょう。
他の解釈のパターン
パターン1:これは「ネット社会」におけるコミュニケーションの歌
この物語を、現代の「インターネット社会」における人間関係のメタファーとして解釈することも可能です。「騙し合いのこの世界」とは、匿名性が高く、誰もが理想の自分を演じがちなSNS空間そのものを指します。「自分を守りたい」という動機でプロフィールを飾り、日常を偽る。「月の裏側も知らずに」とは、アイコンや美しい投稿の裏にある相手の本当の姿を知らないまま、繋がっている状態の比喩です。その中でふと感じるリアルな「ぬくもり」への渇望や、虚像ではない「私を象ろう」というアイデンティティ確立への決意は、現代人が抱えるデジタルコミュニケーションの光と闇を的確に表現していると言えるでしょう。「同じ痛み」とは、ネット上の人間関係に疲れ、傷ついた経験を指し、リアルな世界で本当に共感し合える人と出会いたい、という願いに繋がります。
パターン2:主人公が抱える「嘘」は、社会的な役割や期待のこと
もう一つ、主人公がつく「嘘」を、恋愛における個人的な偽りとしてではなく、社会から無意識に押し付けられる「女性らしさ」や「良い子」といった役割(ペルソナ)として捉える解釈です。この視点では、彼女は「自分を守る」ため、そして周囲を「悲しそうな顔」にさせないために、社会が理想とする女性像を演じています。「本当を話せない」という葛藤は、本音を言えば「我儘だ」「可愛げがない」と評価されることへの恐怖から来ています。「青いままで熟れた果実」は、女性というだけで子供扱いされがちな現状に対し、一人の人間として成熟した内面を認めてほしいというプロテスト(異議申し立て)です。そして、「私を生きてく」という決意は、そうしたジェンダーロールからの解放宣言と読み解けます。彼女が最後に求める「貴方」とは、彼女を「女性」という役割で見るのではなく、ありのままの個人として愛し、その痛みを理解してくれるパートナーのことなのでしょう。
歌詞の中で肯定的なニュアンスで使われている単語・否定的なニュアンスで使われている単語のリスト
肯定的ニュアンスの単語:
信じられる, 夢, 瞳, ぬくもり, 覚えていられる, 生きてく, 真実, 手探りでいい, 象ろう, 出会う, 分け合える, 貴方
否定的ニュアンスの単語:
騙し合い, 嘘, 本当を話せない, 自分を守りたい, 望まない, 悲しそうな顔, 月の裏側, 未来はわからない, 裏切らないで, 見失わない, 触れてしまうことが怖く, 気付かれもしない, 枯れてしまう, 闇, 藻掻く, 迷い込み, 零れてく, 痛み
単語を連ねたストーリーの再描写
「騙し合い」の「嘘」の中で「自分を守りたい」私。
「闇」の中で「藻掻く」ほど「真実」は「零れてく」。
この「痛み」を知るからこそ、いつか「分け合える」「貴方」と「出会う」ために、
「私を生きてく」。
SNS投稿用の紹介文
tuki.「騙シ愛」の歌詞、これは「騙し愛」?「騙し合い」?嘘で自分を守るほど見えなくなる本当の私。それでも信じられるものを探す姿に胸が締め付けられる。
#tuki #騙シ愛