Official髭男dism「Pretender」の歌詞を解釈したら、痛いほど甘い、諦めと本音の物語だった。

歌詞分析

こんにちは!今回は、Official髭男dismの「Pretender」の歌詞を解釈します。叶わないと知りながら、その恋を手放せない切ない想いを紐解いていきましょう。

 

今回の謎

 

  1. なぜこの曲のタイトルは「Pretender(ふりをする人)」なのでしょうか?主人公は一体何の「ふり」をしているのでしょうか?

  2. タイトル「Pretender」の主人公は「君の運命のヒトは僕じゃない」と断言していますが、なぜそれでも「離れ難い」と感じるのでしょうか?

  3. 歌詞の中で何度も繰り返される「君は綺麗だ」という言葉は、この絶望的な恋においてどのような救いになっているのでしょうか?

 

歌詞全体のストーリー要約

この物語は、主人公が自分の恋を、相手の人生という舞台を客席から眺める「観客」のようなものだと悟るところから始まります(観客としての恋)。そのどうしようもない現実から逃れるように、もし違う設定、違う「世界線」で出会えていたらと夢想しますが、それも虚しい願いだとすぐに我に返ります(叶わぬ世界線への憧れ)。最終的に、彼は自分が「運命のヒト」ではないという辛い事実を受け入れ、この恋の終わりを認めながらも、唯一確かな真実である「君の美しさ」だけを胸に抱きしめるのです(痛みを伴う別れの肯定)。

 

登場人物と、それぞれの行動

 

  • 僕: 主人公。想いを寄せる「君」のことが大好きだが、自分たちの関係が結ばれることはないと、冷静に、そして痛切に理解している。彼女の恋人である「ふり」を続ける、悲しい「Pretender(プリテンダー)」。

  • 君: 主人公が想いを寄せる相手。彼が内に秘める、こうした悲痛な葛藤には気づいていない様子。彼にとって、その存在そのものが絶対的な美しさを持つ、まばゆい存在。

 

歌詞の解釈

 

 

序章:ラブストーリーという名の「ひとり芝居」(謎1への答え)

 

物語は、主人公の痛烈な自己分析から始まります。恋が始まる前から、いや、始まった瞬間から、彼はこの恋の結末を「予想」していました。そして、その恋の本質は、相手と心を通わせる物語ではなく、自分だけが感情を高ぶらせる「ひとり芝居」なのだと。

物理的にはすぐそばにいても、精神的には「結局ただの観客だ」と彼は断じます。彼は君の人生という物語の当事者ではなく、あくまでも客席からステージを眺める傍観者に過ぎない。この距離感の描写が、聴く者の胸に突き刺さります。

だから、彼が口にする謝罪の言葉にも感情がこもらない。なぜなら、この関係がうまくいかないことは、彼にとって「いつも通り」の当たり前のことだから。

この曲のタイトルがなぜ「Pretender」なのか。その答えがここにあります。(謎1への答え)彼は、君との関係において、本当の恋人の「ふり」、この恋が成就する可能性がある「ふり」をしています。自分はただの観客だと悟っていながら、恋人という役を演じ続ける。その痛々しい姿こそが、「Pretender」なのです。

 

「世界線」という名の逃避願望

 

どうしようもない現実を突きつけられた主人公は、叶わぬ夢想に心を飛ばします。「世界線」という、今や広く知られるようになったSF由来の言葉が、ここでは主人公の切実な願いを表現するキーワードとして使われています。もし、この人生とは違う、別のパラレルワールドがあったなら。もし、自分たちが違う性格や価値観を持っていたなら、もっと素直に「愛」を伝えられたかもしれない。

しかし、この曲が残酷なのは、そんな淡い期待を「そう願っても無駄だから」という冷徹な一言で、彼自身がバッサリと切り捨ててしまう点です。彼は夢を見ることを自分に許しさえしない。その諦念の深さが、この恋の絶望度を物語っています。

 

痛くて、甘い「グッバイ」(謎2への答え)

 

そして、この曲の感情が最も激しく揺さぶられるサビへと突入します。彼は「グッバイ」と、心の中ではっきりと別れを告げます。「君の運命のヒトは僕じゃない」。それは辛く、しかし否定できない事実なのだと。

ではなぜ、そう理解していながら「離れ難い」のでしょうか。(謎2への答え)その理由は、続くフレーズに凝縮されています。「その髪に触れただけで 痛いや いや でも 甘いな いやいや」。

君に触れるという、恋人ならば当たり前の行為。その瞬間に、彼は二つの相反する感情に襲われます。この触れ合いが偽りであり、一瞬で消えてしまうものだと知っているから「痛い」。しかし、それでもなお、彼女をすぐそばに感じられる瞬間は、抗えないほど「甘い」。

この「痛み」と「甘さ」が混じり合った、麻薬のような魅力こそが、彼をこの恋に縛り付ける鎖なのです。頭では「グッバイ」とわかっているのに、心が、体が、この甘美な痛みを求めてしまう。だから、彼は離れられないのです。

 

誰かの「恋愛の論理」が届かない理由

 

2番では、主人公が感じる孤独がさらに浮き彫りになります。世間で偉そうに語られる「恋愛の論理」は、何ひとつとして彼の心に響かない。それは、彼の置かれた状況が、どんなマニュアルにも当てはまらない、特殊で個人的な悲劇だからです。

その心境を飛行機からの夜景と喩える表現は、まさに圧巻の一言。夜景は遠くから見れば美しい。しかし、そこには人々の営みがあるはずなのに、自分とは全く関係がない。きらびやかで、しかしどこまでも他人事。恋愛の論理も、彼にとってはそれと同じ。美しく聞こえるけれど、自分の痛みとは無関係な、遠い世界の出来事なのです。

このように、忘れられない、他の何物にも代えがたい恋の痛みは、多くの失恋ソングで歌われてきました。例えば、HYの「366日」で歌われる、忘れようとしても忘れられない恋の記憶は、「Pretender」の主人公が抱える執着とどこか重なる部分があります。

HY「366日」歌詞の意味を考察、なぜ「恐いくらい」覚えているのか、その答えは涙の中にあった。
こんにちは!今回は、HYの名曲「366日」の歌詞を解釈します。多くの人が涙したであろう、忘れられない人への痛いほどの想いを描いたこの曲の謎に、深く迫っていきたいと思います。今回の謎なぜ、この曲のタイトルは「366日」なのでしょうか?一年と一...

 

歌詞のここがピカイチ!:エンドラインが見える繋いだ手

 

この曲の持つ文学性を象徴するのが、2回目のサビ前に出てくる「繋いだ手の向こうにエンドライン」というフレーズです。

手を繋ぐという行為は、本来、二人の心の繋がりや未来への希望を象徴するはずです。しかし、彼にとっては違う。手を繋ぎ、親密さが増せば増すほど、その関係の「終わり(エンドライン)」が、より鮮明に見えてしまうのです。

愛おしいはずの行為が、別れを予感させる。この強烈なパラドックスは、叶わぬ恋の切なさと残酷さを、これ以上ないほど見事に描き出しています。

 

モチーフ解釈:「君は綺麗だ」という絶対的な真実(謎3への答え)

 

このどうしようもない恋物語の中で、主人公が唯一、確信を持って口にできる言葉があります。それが「君は綺麗だ」です。では、この言葉は彼にとってどんな意味を持つのでしょうか。(謎3への答え)

「それじゃ僕にとって君は何?」という問いに、彼は「答えは分からない 分かりたくもない」と答えます。「友達」「恋人」「都合のいい相手」…どんな名前をつけても、そこには痛みが伴う。定義しようとすること自体が、この曖昧な関係の欺瞞を暴いてしまうからです。

そんな不確かで、偽りに満ちた世界の中で、ただひとつだけ、彼にとって揺るぎない絶対的な真実。それが「君の美しさ」なのです。それは理屈ではありません。彼の心を捉えて離さない、根本的な事実です。

この恋に意味があるのか、自分たちはどういう関係なのか、そんな問いはどうでもいい。ただ、君が美しい。その事実だけで、この痛くて甘い時間を肯定できる。この言葉は、彼の恋の、唯一にして最大の存在理由であり、救いなのです。

アウトロで、彼はこの運命を「悪くないよな」と呟き、「とても綺麗だ」とダメ押しします。それは、たとえ結ばれなくても、永遠や約束がなくても、君の美しさに触れられたこの時間は、彼にとってかけがえのない宝物だったのだ、という静かな肯定なのです。

この、関係性の中に絶対的な価値を見出す姿は、back numberの「オールドファッション」で歌われる、飾り気のない愛情の中にこそ真実を見出す姿とも通じるところがあります。

back number「オールドファッション」歌詞考察|僕に足りないものを全部持っていた君と、ドーナツが繋ぐ愛の意味。
こんにちは!今回は、back numberの「オールドファッション」の歌詞を解釈します。素朴なドーナツに託された、どこまでも温かく、そして少しだけ切ない愛情の形に、一緒に迫っていきましょう。今回の謎なぜこの楽曲のタイトルは「オールドファッシ...

 

他の解釈のパターン

 

 

解釈A:主人公が不倫・浮気相手の歌

 

これは非常にポピュラーな解釈の一つです。「君の運命のヒトは僕じゃない」という言葉は、君に本命のパートナーや配偶者がいることを示唆していると捉えることができます。そうなると、「ひとり芝居」「観客」という言葉は、彼女の正規の人生の脇役でしかないという、より具体的な意味を帯びてきます。誰にも公にできず、決して結ばれることのない関係。その秘密の逢瀬は「甘い」けれど、同時に自分の立場を自覚させられるから「痛い」。歌詞全体が、報われないとわかっていながらも抜け出せない、不倫の恋のリアリティを帯びてきます。主人公の「Pretender」としての役割は、恋人のふりだけでなく、社会的な関係性の中での偽りをも含んだ、二重のものとなるのです。

 

解釈B:自己肯定感が極端に低い主人公の歌

 

もう一つの視点として、この物語の悲劇性を、運命や外的要因ではなく、主人公自身の内面、つまり極端に低い自己肯定感に求める解釈です。この場合、「君の運命のヒトは僕じゃない」というのは、客観的な事実ではなく、主人公の「どうせ自分なんて彼女にふさわしくない」という思い込みの産物です。彼の恋が「ひとり芝居」になってしまうのは、彼自身が自分を信じられず、彼女の愛を受け取ることを拒絶しているからかもしれません。「『好きだ』とか無責任に言えたらいいな」という願いは、自分には彼女を幸せにする資格がない、という強迫観念の裏返しです。この解釈では、「Pretender」は「彼女にふさわしい男のふりをする人」となり、物語は運命の悲劇から、自分自身を愛せないことによって愛する人を失う、という内面的な悲劇へと変わります。

 

歌詞の中で肯定的なニュアンスで使われている単語・否定的なニュアンスで使われている単語のリスト

 

  • 肯定的なニュアンスの単語: ラブストーリー, ロマンス, 愛, 綺麗だ, 純な心, 叶った恋, 好きだ, 甘いな, 悪くないよな, 永遠, 約束

  • 否定的なニュアンスの単語: 予想通り, ひとり芝居, 観客, 感情のない, 続きはしない, 無駄だから, グッバイ, 僕じゃない, 辛い, 否めない, 離れ難い, 痛いや, 分からない, 分かりたくもない, ピンとこなくて, 虚しいのさ, エンドライン, 疼きだす, 君はいない, 苦しいよな

 

単語を連ねたストーリーの再描写

 

僕のラブストーリーはひとり芝居。

「運命のヒト」じゃないと知るから辛い。

でも甘くて離れ難いんだ。

グッバイ、答えは分からないけど、ただ「君は綺麗だ」。

0 0 votes
この記事を評価しよう
Subscribe
Notify of
0 Comments
Oldest
Newest Most Voted
Inline Feedbacks
View all comments
0
ぜひあなたの意見を聞かせてください!x
()
x
タイトルとURLをコピーしました