登場人物と、それぞれの行動
- 語り手(「I」「俺等」「We」): 過去に低い評価を受けながらも、血のにじむような努力と「GRIT(やり抜く力)」によって前人未到の成功を掴み取った人物(またはグループ)。現状に満足せず、お金や名声に真の価値を見出さず、常に葛藤しながらも、仲間と共にさらなる高みを目指し、批判をものともせず進み続ける。過去を振り返り、困難を乗り越え、未来への決意を固めている。
歌詞の解釈

はじめに:魂の叫びとしての「GRIT」
この楽曲のタイトルであり、歌詞全体を貫く核心的なモチーフは「GRIT」という言葉に集約されています。「GRIT」とは、日本語で「やり抜く力」「気概」「根性」などと訳される、困難に立ち向かい目標を達成するための情熱と粘り強さを指す心理的な特性です。この楽曲は、まさにこの「GRIT」を体現し、それを武器に数々の困難を乗り越え、成功を掴み取りながらも、その先にある真の価値を問い続ける語り手の魂の叫びと言えるでしょう。歌詞は、過去の苦難から現在の栄光、そして未来への揺るぎない決意へと、時間軸に沿って展開されていきます。
第1章:黎明期の記憶と揺るがぬ決意
1.1 過去へのまなざしと現在地
歌詞は、「Throwing back to the days / 未だ通過点」という一節から始まります。これは、語り手が過去を回想しつつも、現在の成功に甘んじることなく、依然として道半ばであるという強い認識を示しています。輝かしい成功の裏には、語られざる過去の苦闘があったことを示唆し、物語の深層へと誘います。
続く「Money and fame / I got だが価値などねぇ」という言葉は衝撃的です。一般的に成功の象徴とされるお金や名声を既に手にしているにも関わらず、それらに本質的な価値を見出していないというのです。これは、語り手が物質的な満足を超えた、より高次元の目標や価値観を追求していることの表れであり、楽曲全体を貫くハングリー精神の源泉とも言えるでしょう。
「Underrated 大歓迎 腹なら決まってる」というフレーズは、逆境を恐れるどころか、むしろ歓迎するという大胆不敵な姿勢を示しています。「Underrated」、つまり過小評価されることは、彼らにとって不当な扱いではなく、むしろ自らの力を証明するための試金石であり、覚悟は既に固まっているという決意が込められています。「こちら芸能でも現場叩き上げ」という言葉には、華やかな世界の住人でありながらも、その地位は決して棚ぼたではなく、現場での地道な努力と実力によって築き上げられたものであるという強烈な自負が表れています。
1.2 逆境からの飛翔
Verse 2では、過去の具体的な状況がより鮮明に描かれます。「下の下の下の有様の下馬評」という強烈な表現は、彼らがキャリアの初期にいかに低い評価に甘んじていたかを物語っています。それは、まるで底辺からのスタートであったかのような厳しい現実です。
「Covid も届かない山の宿」という一節は、文字通りコロナ禍のような社会的な混乱さえも寄せ付けないほど人里離れた場所で、あるいは精神的に隔絶された環境で、ひたすら鍛錬に打ち込んだ日々を想起させます。それは、俗世から離れ、自らの内面と向き合い、技を磨き続けた孤高の時間であったのかもしれません。
しかし、そのような逆境の中から、彼らは壮大なビジョンを抱いていました。「富士山から眺めた海の向こう」という言葉は、日本一の頂きから、遥か彼方の世界市場を見据えていた野心とスケールの大きさを感じさせます。そして、その野心は現実のものとなります。「今Dome 超え周ってる世界の首都」というフレーズは、かつての低い評価を覆し、国内のドームクラスの会場を満員にし、さらには世界の主要都市で活躍するまでに至った現在の姿を誇らしげに宣言しています。これは、まさに「GRIT」がもたらした飛躍の証明と言えるでしょう。
第2章:栄光の陰影と「GRIT」の確信
2.1 ピンチとチャンスの狭間で
Pre-Chorusでは、成功への道のりが決して平坦ではなかったことが語られます。「何度もピンチは潜り抜けた / 何度もチャンスは手をすり抜けた」。これは、数えきれないほどの危機的状況を乗り越えてきた一方で、掴みかけた好機を逃してきたという、光と影の両面を経験してきたことの証です。成功物語の裏に隠された試行錯誤と、それに伴う痛みや悔しさが滲み出ています。
そして、内省的な問いかけが続きます。「今掴むべき物はなんだ? / I want that, I want that, I want」。これだけの成功を手にしてもなお、語り手は真に求めるもの、掴むべき本質的な何かを渇望し続けています。「I want that」の繰り返しは、その渇望の強さと切実さを強調しています。それは、物質的な成功や一時的な名声ではなく、より永続的で、自己の存在意義に関わる何かであるのかもしれません。
2.2 「前人未到」の栄光とつきまとう懐疑
Chorusは、この楽曲の核心部分であり、語り手の複雑な内面が最も強く表れています。「Everything you see / 前人未到を手中に」という言葉は、傍から見れば誰もが羨むような、かつて誰も成し遂げたことのない領域の成功を手に入れたことを高らかに宣言します。しかし、その直後に続く「But I don’t know if it’s…」というフレーズの繰り返しが、その栄光に潜む深い葛藤を明らかにします。手にした成功が、本当に価値あるものなのか、自分が追い求めていたものなのか、確信が持てないというのです。この「わからない」という感情の吐露は、成功の頂点に立つ者だけが感じる孤独や不安、あるいは現状に満足することなく常に自問自答を続けるストイックな姿勢の表れとも解釈できます。
「紅く血で染まったグローリー」という鮮烈なイメージは、その栄光が決して容易に手に入れたものではなく、文字通り血のにじむような努力、多大な犠牲、そして激しい闘いの末に勝ち取ったものであることを物語っています。「血」は、汗や涙だけでなく、精神的な消耗や、時には他者との衝突さえも暗示しているのかもしれません。この「血染めの栄光」という表現は、成功の代償の大きさと、それゆえの重みを強く印象づけます。
しかし、そのような葛藤や懐疑の渦中にあっても、揺るがないものが一つだけあります。それが「I got the GRIT」という力強い宣言です。たとえ手にした栄光の真価に迷いが生じようとも、自らが持つ「やり抜く力」、困難に立ち向かう不屈の精神だけは疑いようのない真実であり、それこそが自分を支え、未来を切り拓く原動力であるという確信がここにはあります。この「GRIT」こそが、あらゆる迷いや不安を乗り越えるための最終的な拠り所なのです。
Post-Chorusでの「Got the GRIT」の反復は、この信念をさらに強調し、聴く者の心に深く刻み込みます。それは自己暗示のようでもあり、世界に対する宣言のようでもあります。
第3章:反骨の狼煙と共鳴する魂
3.1 批判へのカウンターと新たなる飛翔
Verse 3では、語り手の視点は外部に向けられ、世間の評価や批判に対する毅然とした態度が示されます。「Amazing わかった風の評論家気取りに溜め息」という一節は、表面的な理解や浅薄な批評を一蹴するかのようです。彼らの本質や苦闘を理解しようとせず、安易に評価を下す人々に対する冷めた視線と、ある種の軽蔑さえも感じさせます。
そして、現状に安住する意志がないことを明確に宣言します。「地に足はつけない とっくに乗り込んだ Spaceship」。これは、従来の成功のレールや安定した場所には留まらず、既に未知の領域、新たなる挑戦(Spaceship=宇宙船)へと舵を切っていることを意味します。宇宙船というモチーフは、既存の枠組みを超越し、誰も到達したことのない場所を目指すという壮大な野心と冒険心を象徴しています。
「Black Hole も逆に飲み込む様なイメージ」という強烈な比喩は、彼らの進む道に立ちはだかるであろうあらゆる困難や障害(Black Hole=破壊的な引力を持つ天体)さえも、恐れるどころか、逆に自らのエネルギーとして吸収し、乗り越えていくという圧倒的な力強さと自信を示しています。これは、もはや防御ではなく、攻めの姿勢であり、どんな逆境も成長の糧に変えてしまうほどのタフネスを表しています。
このセクションの最後は、「We’re not gonna stop, ain’t nobody touch us now」という力強い言葉で締めくくられます。ここで初めて一人称が「I」から「We」へと変化します。これは、個人の戦いであった物語が、仲間と共に歩む集団の物語へと移行したことを示唆しています。彼らは止まることを知らず、もはや誰にも邪魔されることのない境地に達したという確固たる自信と、仲間との強い絆を感じさせます。
3.2 「流派B」のプライドとヒーローの自覚
Bridgeでは、さらに踏み込んで、彼らのアイデンティティと既存の価値観への挑戦が語られます。「正統派、メジャー、多数派 / 成功者 わからすんだ」という言葉は、音楽業界や社会における主流派や既存の成功モデルに対して、自分たちのやり方、自分たちの価値観こそが本物であることを証明し、理解させてみせるという強い意志表示です。これは、マイノリティであることの自覚と、そこから生まれる反骨精神の表れと言えるでしょう。
「流派B の BOYSがまたヒット / 俺等ティンバー履いたヒーロー You know?」というフレーズは、彼らの出自やスタイルを具体的に示唆しています。「流派B」が何を指すのかは具体的には不明ですが、既存の主要な流派ではない、独自のスタイルや哲学を持つグループであることを示しています。「ティンバー」は、ティンバーランドのブーツを指すと思われ、特定のファッションやカルチャーに根ざしたアイデンティティを象徴しているのかもしれません。そして、そのような自分たちを「ヒーロー」と称することで、既存のヒーロー像とは異なる、新たな時代のロールモデルとしての自負を表明しています。「You know?」という問いかけは、聴衆に対して同意を求めると同時に、自らの存在意義を強くアピールするものです。ここで使われる「俺等」という一人称は、「We」よりもさらに親密で、ストリート感のある仲間意識を強調しています。
第4章:確信としての「GRIT」と未来への宣言
4.1 再び向き合う葛藤と、それでも変わらぬもの
Pre-ChorusとChorusが繰り返されることで、物語は再び内面へと回帰します。成功の裏にあるピンチとチャンスの記憶、本当に掴むべきものへの問い、そして「前人未到」の栄光に対する「I don’t know if it’s…」という葛藤。これらの感情は一度乗り越えたように見えても、人間である以上、完全には消え去らないのかもしれません。むしろ、この葛藤こそが彼らを駆り立て、さらなる高みへと押し上げる原動力となっているとも考えられます。
しかし、何度この葛藤が繰り返されようとも、最終的に行き着く答えは常に同じです。「紅く血で染まったグローリー」の重みを噛み締めながらも、最後に力強く宣言されるのは「I got the GRIT」。この揺るぎない確信こそが、全ての迷いを断ち切り、彼らを前進させる羅針盤なのです。
4.2 「GRIT」の反響と未来への咆哮
Post-ChorusとOutroでは、「Got the GRIT」というフレーズが何度も繰り返されます。この反復は、もはや単なる宣言を超え、彼らの存在そのものが「GRIT」の塊であることを示しているかのようです。それは、自らに言い聞かせる誓いであり、世界に対する高らかな宣誓であり、そして未来への揺るぎない決意表明です。繰り返される「GRIT」の響きは、聴く者の心にも深く浸透し、困難に立ち向かう勇気と情熱を呼び覚ますかのようです。
モチーフ「GRIT」が示すもの
この楽曲における「GRIT」は、単なる根性論や精神論を超えた、多層的な意味合いを持っています。それは、
- 不屈の精神: 低い評価や逆境にも屈せず、目標に向かって努力し続ける力。
- 情熱と粘り強さ: 「Money and fame」に価値を見出さず、真に求めるものを追求し続ける情熱と、それを諦めない粘り強さ。
- 自己肯定感の源泉: 「I don’t know if it’s…」という成功への懐疑や葛藤の中でも、唯一確信できる自己の核となるもの。
- 反骨精神の象徴: 「Underrated 大歓迎」「正統派、メジャー、多数派 わからすんだ」といった言葉に代表される、既存の価値観や権威に媚びず、自らのやり方を貫く反骨精神。
- 仲間との絆を支えるもの: 「We」「俺等」といった言葉と共に語られるように、個人だけでなく、チーム全体で困難を乗り越え、目標を達成するための共通の信念。
このように、「GRIT」は語り手(たち)の過去、現在、未来を繋ぐ一本の太い線であり、彼らのアイデンティティそのものを形成する重要な要素として描かれています。それは、血のにじむような努力の末に手にした栄光の裏で、常に自問自答を繰り返しながらも、決して歩みを止めない彼らの生き様そのものを象徴しているのです。
歌詞の中で肯定的なニュアンスで使われている単語・否定的なニュアンスで使われている単語のリスト
肯定的なニュアンスで使われている単語
- GRIT
- 大歓迎
- 腹なら決まってる
- 叩き上げ
- 富士山
- 海の向こう
- Dome 超え
- 世界の首都
- 潜り抜けた
- 掴むべき物
- I want that
- Everything you see
- 前人未到
- 手中に
- グローリー (Glory)
- Amazing
- Spaceship
- 飲み込む (困難を克服する意味で)
- We’re not gonna stop
- ain’t nobody touch us now
- 正統派 (乗り越える対象だが、その存在が語り手の価値を際立たせる)
- メジャー (同上)
- 多数派 (同上)
- 成功者 (自分たちがそうなる、あるいは既存の成功者を「わからせる」対象として)
- ヒット
- ヒーロー
否定的なニュアンスで使われている単語
- 価値などねぇ (Money and fameに対して)
- Underrated (ただし「大歓迎」と続くため、反骨精神のバネとしてポジティブに転化)
- 下の下の下の有様の下馬評
- Covid (困難の象徴として)
- ピンチ
- 手をすり抜けた (チャンスを)
- I don’t know if it’s… (成功や栄光に対する懐疑・葛藤)
- 紅く血で染まった (栄光の代償としての痛みや犠牲)
- わかった風の評論家気取り
- 溜め息
- Black Hole (克服すべき困難の象徴)
歌詞全体のストーリー
低い下馬評やピンチを乗り越え、前人未到の栄光を掴むも、その価値に葛藤する語り手。だが仲間と共に、揺るがぬ「GRIT」を胸に評論家を跳ね除け、独自のスタイルを貫くヒーローとして、世界の首都を巡り更なる高みへと進み続ける。
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